帝国データバンクによると、2024年の県内の後継者不在率は65.3%で全国平均の52.1%を上回り、差も拡大しています。近年では親族内承継に限らず、第三者への事業引継ぎ、いわゆる「第三者承継」が増加傾向にあります。その中でも手法として多く用いられているのが、「株式売買」を活用した承継(М&A)方法です。
本稿では、特に小規模な法人(いわゆるオーナー企業)における株式売買による事業承継の基本的な考え方と、実務上の流れについて概説します。
株式売買による承継の利点
株式売買とは、会社の発行済株式を既存の株主(多くの場合、代表者本人)が第三者に譲渡することで、経営権を移転する方法です。法人格そのものには変更がないため、会社名、資産、負債、契約関係、従業員の雇用関係などは継続されます。この手法は、会社の持つ許認可、取引関係、契約の名義変更を要しないことが多く、事業運営への影響を最小限に抑えながら承継できる点が大きな特徴です。
小規模法人の場合、代表者=唯一の株主であることが一般的です。そのため、株式売買により代表者が株式の全部を第三者に譲渡すれば、経営権の移転が比較的簡潔に完了します。
他の承継の方法として、吸収合併がありますが、双方で原則として株主総会決議や債権者保護手続が必要となります。事業譲渡では、一つひとつの契約や資産について個別に移転手続きを行う必要があります。いずれも株式売買よりも時間と費用を要します。
実務上の主な流れ
1 意向確認および条件協議
売主・買主間で売却条件(価格、時期、役員体制など)を協議・整理します。
2 秘密保持契約・基本合意書の締結
情報漏洩の防止および協議の枠組みを定めるため、NDA(秘密保持契約)やLOI(基本合意書)を取り交わします。
3 デューデリジェンス(調査)
財務・法務・税務などのリスクを洗い出す調査を実施します。
4 株式譲渡契約の締結
譲渡株数、代金の支払方法、表明保証条項などを明記した正式な契約を締結します。
5 クロージング(決済と名義変更)
株式の売買代金の支払いと同時に株主名簿の書換え、役員変更の登記、印鑑や通帳の授受を行います。
株式の買手・売手をマッチングしたり、上記の手続きを円滑に行うサポートをするのが、「事業承継・引継ぎ支援センター」や「М&A会社」です。
おわりに
株式売買を用いた事業承継は、小規模法人にとって現実的かつ実行可能性の高い手法です。とはいえ、買主にとっては簿外債務や過去の法的リスクをも引き継ぐ可能性があるため、十分な情報開示と適切な契約整備が不可欠です。